大切なのは、高齢者や障碍者を取り巻く社会状況と福祉住環境をしっかり捉えて、自治体とリンクした住環境整備をしたいですね‼

 

 

家をバリアフリーに、改修費用は? 浴室は80万円前後

介護保険、1人20万円まで給付

 

                       日本経済新聞 夕刊 2021(令和3)年12月1日(水曜日)

 Q:父親が病気による半身まひで要介護状態になり、階段の昇降が大変になりました。階段から転落したり段差でつまずいたりしないか心配です。家をバリアフリーにするにはどう改修すればいいですか。費用はどれくらいか、公的補助があるのかも教えてください。

東京都杉並区の戸建て住宅に住む男性(70)は脳疾患で左半身がまひし、左手が動かなくなった。普段は2階で暮らすが、1階に浴室があるため入浴する際は階段を下りなければならない。同居する娘が心配して施工業者に改修を頼んだ。

まず着手したのが、手すりの取り付けだ。階段の片側にしか付いていなかったため、反対側にも取り付けることにした。次に浴室のドアを取り換えた。内開きのドアだと浴室内で倒れたとき、ドアが開かず救出できない恐れがあるため、折れ戸に交換した。つまずかないよう寝室や居間の敷居を削り、段差をなくした。

 動線の確保が重要

 この工事を請け負った住宅改修会社のアビリティーズ・ケアネット(東京・渋谷)の末永浩一さんは「大事なのは動線の確保」と話す。特に脳疾患などで半身がまひした高齢者は足元がおぼつかない。日常的に過ごすリビングからトイレや浴室・洗面所までの動線を考え、移動の際に邪魔になりそうな家具やテーブルがあったら、動かすなどレイアウトの変更も検討する。

それでも何かにつかまらないと歩けない場合、廊下や階段などに手すりを取り付ける。ただ、やみくもに設置するのではなく、本当に必要な場所だけに絞る。「実際に本人に動線を歩いてもらい、どこに手すりがあれば安心して歩けるかを確かめる」(末永さん)。トイレや風呂も同様で、本人に排せつや入浴の動作をしてもらい、「ここにあったら動作が楽になる」という場所に取り付ける。

 自身の将来も想定

住宅改修を数多く手掛ける高齢者住環境研究所(東京・練馬)の溝口恵二郎社長は「住宅改修は親のためだけでなく、自分自身が将来、介護が必要になったときのことも想定しておくことが大切だ」と説く。

住宅を改築する予定がある場合、最初から手すりのネジなどが取り付けられるよう壁の裏側に下地を設けたり、段差をなくしたりする。トイレや風呂、洗面所などの水回りは面積を広くとる。将来、要介護になったとき、介助者が入るスペースが必要になるからだ。盲点はドア。車椅子生活になった場合、開き戸より引き戸の方が開けやすい。

 東京都武蔵野市に住む80代の男性は脳梗塞で重度のまひが残り、車椅子生活になった。日常生活で困るのがトイレ。ドアは引き戸で間口が狭く、車椅子からの移乗が難しかった。そこでトイレとリビングとを隔てていた壁をぶち抜き、大きな引き戸を設置。リビングから車椅子で直接トイレに入れるようにした。

このように家をバリアフリーに改修する費用はどのくらいかかるのだろうか。アビリティーズ・ケアネットの末永さんによると、間取りや改修の内容によって幅はあるが、浴室の場合、浴槽を深いものから浅いものに替えたり、L字の手すりや折れ戸を設置したりすれば合計で80万円前後かかる。トイレの改修は30万~40万円、手すりの取り付けや段差の解消は1カ所あたり2万円前後するという。

介護保険、要支援以上の認定で給付 

 費用負担を減らすためには、公的介護保険を利用したい。介護保険の給付は住宅改修も対象だ。要支援以上の認定を受ければ、1人20万円まで給付を受けられる。ただし、自己負担が1割の人は2万円が自己負担になるので18万円、2割の人は4万円の自己負担で16万円が支給される。

給付対象は、手すりの取り付けや段差の解消、開き戸から引き戸・折れ戸へ、和式トイレから洋式へ、滑りにくい床材へ、それぞれの変更だ。20万円になるまで何回か分けてもいい。自治体の窓口で事前申請し、審査が通れば着工する。

住宅改修を助言する団体、コ・ラボ代表で東京大学高齢社会総合研究機構・元特任助教の西野亜希子さんは「改修は高齢者本人だけでなく、介助者、特に日常的な介護を担う家族にとっても負担が軽くなる。ちょっとした改修でもいいから、やってみると互いにストレスを抱えずに済む」と改修の大切さを訴える。

(高橋敬治)