定期てきな『がん検診』が何よりですね、

その環境をしっかり構築したいものです。

がんになっても働ける職場づくり 中小企業向けに推進

がん社会を診る 東京大学特任教授 中川恵一

2022令和4年2月16日水曜日 日本経済新聞 夕刊

 

イラスト 中村 久美
イラスト 中村 久美

 東京大学医学部付属病院と大同生命は、中小企業における新たながん対策研究をスタートしました。「がんに対する意識とがん患者の就労状況」に関する共同研究です。

私が中心となる「チーム中川」が研究を推進していきます。

 この研究は、職域がん対策を進める厚生労働省の国家事業「がん対策推進企業アクション」と大同生命が共同で進めてきた「中小企業のがん対策実態調査(大同生命サーベイ)」などをさらに発展させるものです。

この企業アクションは、今年度で13年目となる異例の長寿事業です。私が議長としてとりまとめてきた13年の知見と、「中小企業を守る」という理念のもと、中小企業向けの保障をリードしてきた大同生命の豊富な契約データなどを融合させる取り組みが今回の共同研究です。

研究の最終目的は、「がんになっても安心して働ける中小企業の職場環境」をつくり上げることにあります。

今、年間約100万人が、新たにがんと診断されていますが、その3分の1は、15~64歳の「働き世代」です。

今後は、定年延長や女性の就労率の増加などにより、「働く世代のがん患者」はますます増加していくでしょう。まさに、新たな「がん社会」の到来です。

今、がん全体の10年生存率は6割に上りますが、早期がんであれば、多くのがんで95%以上が完治します。

がんと診断されると1年以内の自殺率が20倍を超えるなど、まだまだ、がんは「不治の病」というイメージがあるようですが、実際は「治る病気」になってきています。仕事をしながら、がんの治療を続ける方も増えています。

中小企業の場合、従業員が、がん治療のために退職したり、長期間休職したりすると、大企業以上に大きな痛手となります。そのため、今後は、いかに早く従業員のがんを発見し、治療を開始するかが重要となります。

まずは、従業員が定期的に「がん検診」を受診しやすい職場環境づくりが必要でしょう。日本の企業の99%は中小企業です。そして、就労者の約7割が中小企業で働いています。一方で、中小企業のがんに対する理解や対策は、まだ十分に進んでいるとはいえません。

今回の共同研究は、そうした課題を解決し、日本を支える中小企業とそこで働く人々が生き生きと活躍できる社会をつくり上げることをめざしています。

さらに、日本の高齢化社会が抱える大きな課題を解決する取り組みとしても、たいへん意義のある共同研究だと考えています。

 

 

 

 

 がんは、しつこい病気です。

たとえ体調は絶好調であっても、

がん検診は不要不急ではありませんね‼

 

フランスでもがん患者「減少」

がん社会を診る

中川 恵一

2021年(令和3年)2月3日水曜日

日本経済新聞 夕刊 

イラスト・中村
イラスト・中村

 

 暁星学園(東京・千代田)で小学校からフランス語を学びました。小学校2年生のときに、学園内に、在日フランス人の子女を受け入れる「暁星学園国際部日仏科」(現、東京国際フランス学園)ができ、放課後、フランス人の子供たちと一緒に学び、遊びました。

 英語を習い始めると、名詞に性別がないなど違和感を感じたことを思い出します。大学受験でも、外国語はフランス語を選択しましたから、今でも、英語よりフランス語の方が得意です。もっとも話す機会はほとんどありません。

さて、そのフランスは、世界に冠たる原子力大国で、私が専門とする放射線医学でも世界をリードしています。

 1895年にレントゲンがX線を発見した翌年、世界で初めて放射線治療を実施したのも、リヨンの医師、デスペーニュでした。さらに、キュリー夫妻が1898年にラジウムとポロニウム(マリー・キュリーの祖国、ポーランドに因む)を発見すると、ラジウムは放射線治療の主役となりました。

 1903年、キュリー夫妻は、ウランが発する放射線を発見したアンリ・ベクレル(フランス人)と共に、ノーベル物理学賞を受賞します。さらに、1911年には、ラジウムとポロニウムの発見などの理由で、マリーがノーベル化学賞も受賞。パリ大学初の女性教授職に就任し、キュリー研究所を設立しました。

 キュリー研究所のパリ病院は世界有数のがん専門病院ですが、今、がん患者の「減少」に頭を悩ませています。同病院のフェロン医師によると、コロナによる「受診自粛」により、2割も患者が減っているそうです。

フランス最古の歴史を持つ新聞「ル・フィガロ」は、昨年春の初回のロックダウンによって、今後数年間で最大6000人もがん死亡がふえると報じています。現在も断続的に繰り返している制限や政策を含めた影響は計り知れません。

コロナによるがん死亡の増加はイギリスでも報じられており、世界的な現象と言えるでしょう。

がんは症状を出しにくい病気です。たとえ体調は絶好調であっても、検診や検査は必要です。がん検診は不要不急ではありません。

(東京大学病院准教授)

 

 

 

 皆さん、がん検診は不要不急ではありません。

 検査の『自粛』によるがん患者の「減少」 ➡ がんの発見の遅れ ➡ 手術の遅れ

   その結果、死亡リスクの上昇となります。

治療の延期、死亡率高める

がん社会を診る

中川 恵一

2021年(令和3年)1月27日水曜日

日本経済新聞 夕刊 

 

 昨年の新型コロナウイルス感染症による死者数は3500人にも上りましたが、1年間にがんと診断される患者数は100万人を超え、がんによる死亡は約38万人にも上ります。死亡数では、がんはコロナの100倍以上になります。

イラスト・中村 久美
イラスト・中村 久美

 また、コロナによる死亡は80歳以上が63%を占めるのに対し、70歳未満は13%にすぎません。がんも高齢者に多い病気ですが、がん患者全体の42%が70歳未満です。さらに、働く人の死因の約半数がこの病気です。病死に限れば、9割はがんが原因です。現役世代にとっては、コロナとは比較できないくらい大きなリスクと言えるでしょう。

前回、がん患者が「減少」していると書きました。検査の「自粛」による発見の遅れが主な理由です。

ただし、治療の自粛の影響もあります。がん患者の就労を支援する「CSRプロジェクト」が、診断から5年以内のがん患者310人を対象に調査をしました。結果をみると、40人が受診や検査、治療をキャンセルしたり、延期したりしていました。

 治療の延期は死亡率を高めることが分かっています。昨年11月に報告された大規模な調査研究では、膀胱(ぼうこう)がん、乳がん、結腸がん、直腸がん、肺がん、子宮頸(けい)がん、頭頚(けい)部がんの7種類について、治療が遅れた群と遅れなかった群を比較しています。

その結果、手術が4週間遅れると、死亡リスクは6~8%上昇していました。手術の前と後に行われる補助化学療法についても、膀胱がんの術前化学療法の遅れは24%、乳がんの術前化学療法の遅れは28%も死亡リスクを高めていました。

放射線については、頭頚部がんへの根治的放射線療法で9%、子宮頸がんへの術後放射線療法で23%の死亡率アップと報告されました。

 もっとも、がん治療の現場にいる私の感覚では、がんと診断されて治療を延期する人は少数派だと思います。

 東京大学病院でも、国立がん研究センターでも、胃がんの外科手術の件数が4割以上減っていますが、コロナで、胃カメラの検査自粛が起こっているのが主因でしょう。

繰り返しますが、がん検診は不要不急ではありません。

(東京大学病院准教授)

 

 

 

医療広告、断定や曖昧さ要注意

がん社会を診る                日本経済新聞 夕刊 より

中川 恵一                  2020年(令和2年)11月25日(水曜日)

 

 要注意です‼

 まずは、ネット検索の上位も「広告」のマーク‼!

「100%完治」、「末期からの生還」などの断定的に誇張された表現‼

藁にもすがる想いの時には、つい うっかりがあるのが人の常ですね‼ 

イラスト・中村・久美
イラスト・中村 久美

 一般的に、価格が上がるほど、商品の価値も高くなります。しかし、日本の医療制度では、個人の支払額が高い医療行為には疑問を持つ必要があります。わが国が誇る国民皆保険制度では、科学的に有効性が示されている医療行為は保険の適用となるからです。

 「最善・最良の治療」を意味する「標準治療」は基本的には健康保険が利きますから、保険の対象外の自由診療に手を出す必要はまずありません。

しかし、ほとんどの免疫細胞療法など、効果が不明のがん治療を自由診療の形で行う施設も多く、問題です。では、あやしい医療の「宣伝行為」を見破るコツを伝授いたしましょう。

まず、ネット検索で上位にあっても、「広告」のマークがついたものは注意しましょう。「100%完治」「末期からの生還」など、断定的な表現や誇張された表現は信用しないようにしましょう。

次に「体に優しい」「セレブが使っている」「あきらめないがん治療」などの曖昧な表現も要注意です。体験談や治療前後の画像を単に並べたものは信用しない方がいいでしょう。

保険が利かない自由診療の場合、とくに費用や副作用について確認しなくてはなりません。無料説明会、無料相談といった表現にも注意が必要です。

国もこうした問題を重視しています。2018年6月に医療法を改正し、医療機関のウェブサイトが新たに医療法の広告規制の対象となりました。具体的には、患者の体験談や治療前後の画像の羅列は禁止されました。

 「100%完治」などの虚偽広告、「日本有数の実績を誇る」といった比較優良広告、「効果が高く、おすすめ」などの誇大広告も基本的に許されません。

これまで医療機関のホームページも現在は、法令による規制の対象となっており、違反に対しては行政処分や刑事罰等の厳しい制裁が設けられています。

それでも資料の郵送に誘導するなど、巧妙なやり方で規制をかいくぐろうとする医療機関もあるようです。

がん治療は一種の情報戦。私たち、一人一人が医療情報に対するリテラシーを高めていくことが大切です。

(東京大学病院准教授)

 

 

 

抗がん剤、心臓病の遠因?
長期使用の影響、学会が問題視 社会復帰急増、新たな課題に

             2019/12/5付 情報元 日本経済新聞 朝刊 真相深層
*がんサバイバーである私も、うなずきますね、
抗がん剤のおかげで、かつての『不治の病』からの生存率の向上、余命の延長からがんサバイバーとして完治して日常生活に戻れる人が増えていますね、しかし【がん】はひつこいですね!
抗がん剤、心臓病の遠因?  長期使用の影響、学会が問題視 社会復帰急増、新たな課題に    2019/12/5付日本経済新聞 朝刊
抗がん剤、心臓病の遠因? 長期使用の影響、学会が問題視 社会復帰急増、新たな課題に 2019/12/5付日本経済新聞 朝刊

 抗がん剤の進歩などで、治療後に社会に復帰する「がんサバイバー(がん経験者)」が増えたことで、抗がん剤の影響とみられる心臓や血管など循環器系の疾病に苦しむ患者が目立ち始めた。治療中の抗がん剤の影響とみられる心臓病で亡くなる人も出ている。問題視した専門学会などが対策に動き始めた。

 東京都に住む70歳代の女性は、2年前に悪性リンパ腫を発症し、抗がん剤の治療で治った。ところが、その直後から心臓の不調を訴え、東京大学病院(東京・文京)の腫瘍循環器外来を受診した。抗がん剤の影響による重度の心不全という診断を受け、薬物治療を開始。現在は改善傾向にあるが、定期的に通院して心臓の働きを調べる。

かつて、がんは「不治の病」とされ、余命の延長が最優先とされてきた。だが、抗がん剤の技術開発の進展も大きく貢献し、生存率が著しく向上。がんサバイバーとして完治したり、通院で治療したりしながら、日常生活に戻る人が増えた。

国立がん研究センターによると、2006~08年にがんと診断された患者の5年生存率は62%と、1993~96年の53%から9ポイント増えた。過去5年以内にがんと診断されて生存している人は、15~19年の平均で約310万人に達した。

 

長寿化が背景

 

 長生きするようになったゆえに、浮き彫りになってきたのが、がんサバイバーが血管や心臓の病気で苦しむ姿だ。

もともと、抗がん剤は正常な細胞や組織も傷つけるものも多く、脱毛や嘔吐(おうと)などのさまざまな副作用を伴う。投与中に心臓の働きが弱まったり、血栓が肺の血管に詰まったりする可能性は知られていた。だが、近年、種類の違う抗がん剤を使い分けて治療成績を上げているため、1人の患者の投薬期間も長くなりやすく、体への負担が増している。

新潟県立がんセンター新潟病院の大倉裕二部長の推計によると、心臓や血管の病気で苦しむがん患者は15年時点で国内に25万人。がん患者の8%に当たる。「高齢化などで30~34年には31万人に増える見込みだ」(大倉部長)。心臓の細胞などでは、抗がん剤でできた傷が回復しにくいため、投与終了後にも影響が出やすいという。

抗がん剤による治療効果が比較的高い乳がんの場合、治療開始後1年以内に死亡する患者の3割が、がん以外の抗がん剤の影響とみられる心臓や血管の病気だ。診断から10年後には心臓や血管の病気で亡くなる人の数ががんによる死亡者数を上回る。循環器治療が専門の東京大学の小室一成教授は「抗がん剤が心臓や血管を傷つけ、その影響が重篤化している可能性がある」と話す。

まだ抗がん剤と循環器系の病気の因果関係は不明な点も多く、発生頻度などの実態把握はできていない。そこで専門学会が本格的に動き始めた。

9月下旬に開かれた日本腫瘍循環器学会で、20年春から抗がん剤が心臓の機能を弱める作用の起こしやすさなどを調べる手続きを始めることを決めた。全国の大学病院やがん治療の拠点になる病院に広く参加を呼びかける。

 

来年にも手引書

 

 さらに、抗がん剤の心臓への負担増加を防ぎながらがんの治療を続ける手引書を作り始め、早ければ20年内に完成させる。抗がん剤治療の専門医の学会と共同で治療指針も作る。同学会理事長でもある小室東大教授が「循環器の医師が診る心臓にはがんができない。がんを治療する腫瘍内科医との連携は弱かった」と明かすように、循環器とがんを治療する医師の連携も課題だ。

全国に先駆けて、抗がん剤によると思われる心臓や血管の病気を診る専門外来を設置した大阪国際がんセンターは、他の医療機関からも患者を受け入れている。藤田雅史主任部長は「全てのがんセンターに常勤の循環器医がいるわけではないため、工夫が必要」と指摘する。

増えるがんサバイバーを支えるためにも、がん治療とほかの疾患治療との連携は待ったなしだ。

 

 

 

がん社会を診る                    働き盛りの死 ダメージ大きく  中川恵一

 働き盛りは、何かと時間に追われて自身の健康管理にいき届かずに、生活習慣も乱れがちになってしまう方が多いですね!

 しかし、体が資本ですからね! 忙しすぎには、ブレーキが肝要です。

                     2019(令和元年)年 日本経済新聞 夕刊

 1年間にがんと診断される日本人は101万人に上り、38万人近い人がこの病気で命を落としています。がんは死因のトップで、全体の3割弱を占めています。死亡数は85年の2倍にもなっています。

 

イラスト・中村 久美
イラスト・中村 久美

 がん死亡が増えている最大の理由は高齢化です。がんは遺伝子の老化といえる病気ですから、年齢とともに増えていきます。高齢化の影響を除いた「年齢調整がん死亡率」は年々減少しています。

さて、年代別では、男性は10~44歳は自殺が死因のトップですが、それ以外のほとんどの年代では、がんが死因の1位を占めます。女性でも、自殺がトップの15~34歳を除くほとんどの年代で、がんが死因の1位です。

がんが死因に占める割合は、20代では1割前後で、その後、年齢とともに高くなっていきます。男性では65~69歳がピークで、この年代では、がん死亡は死因全体の半分弱を占めます。女性では55~59歳がピークで、死亡の6割近くが、がんによるものです。

女性の方が若い年代にピークが来る理由は、乳がんは40代後半、子宮頸(けい)がんは30代に最も多いからです。

がんで死亡する割合は、男性では70代以降、女性では65歳以降は低下していき、100歳以上になると1割にもなりません。心臓病、肺炎、脳卒中、老衰といった、がん以外の病気が原因で死亡する割合が高くなるからです。

がんによる死亡数は年齢とともに増え続けるのはたしかですが、がんが死因となる割合は65~70歳からは減り続け、他の病気で死ぬ確率が高まってくるというわけです。

死因としてがんは、中年から70歳前後までの年代で比率が高いのです。がんは働き盛りで家計を支える患者を襲います。もちろん、家族にも大きなダメージになります。

私も義理の妹を48歳の若さで、大腸がんで亡くしました。50歳の死亡と100歳での死亡では、家族に与える影響は全くちがってきます。

こうした悲劇を避けるには、がんにならない生活習慣を心がけ、運悪くがんになった場合でも、早期発見で完治させることが大事です。

人生100年時代と言いますが、「長く、ハッピーな老後」をはばむ最大の壁が、がんによる死亡だといえるでしょう。

(東京大学病院准教授)

 こんにちは、

 新しい治療法も。

 がん患者の高額な治療費を抑えていただきたいものです。

 

免疫生かす「第4の道」(ルポ迫真)

がんは克服できるか(1)

                  2019/7/30(火)情報元 日本経済新聞 朝刊

「生きていられるのは、新しい治療法があったからです」。札幌市に住む中畠由美子(49)は、5月に保険適用となったスイス・ノバルティスのがん治療薬「キムリア」についてこう話す。CAR-T(カーティー)療法と呼ぶ最新技術を使った薬だ。

中畠は2013年、血液がんの悪性リンパ腫と診断された。複数の治療法を試したが、うまくいかなかった。普通の抗がん剤で一度がんが消えたが、15年に再発した。血液をつくる幹細を自分の体から取り出し、増やして戻す「自家移植」でも再発した。

  キムリアは世界初のCAR-T療法の薬として、17年に米国で販売が認められ、一部の白血病などに使われている。ノバルティス日本法人のオンコロジープレジデント、ブライアン・グラッツデン(47)は日本で保険が適用され「治療の選択肢が限られていた患者にも提供できる」と話す。

 

CAR-T療法はがんなど異物を排除する人間の力を生かす。グラッツデンは「患者自身の免疫システムを利用してがんと闘う」と説明する。

異物の排除役を担うのがT細胞だ。これを体から取り出し、がんを見つけて攻撃する遺伝子を入れ、体に戻す。治験では抗がん剤の効かない白血病患者の8割以上、悪性リンパ腫では5割以上で効果があった。

人類はがんと闘い続けてきたが、克服できていない。世界保健機関(WHO)によると18年の世界の死亡者数は956万人。10年時点の経済損失は1兆1600億ドル(約125兆円)に及ぶ。

CAR-Tをふくむ免疫療法は手術、放射線治療、抗がん剤に次ぐ「第4のがん治療法」といわれる。体の働きが分子レベルで解明されるようになり、ここ10年ほどで開発が進んだ。小野薬品工業「オプジーボ」も、やっつける方法は違うが免疫を生かしている。

キムリアのほかに発売されているCAR-T療法の薬は、欧米で使われる米ギリアド・サイエンシズのリンパ腫治療薬だけ。次の新薬を目指し、免疫療法の中でも開発競争が激しい分野だ。

M&A(合併・買収)の金額が跳ね上がっている。米ブリストル・マイヤーズスクイブが19年1月、米セルジーンを8兆円で買うと発表したのも、この技術を手に入れる狙いがあった。富士フイルムホールディングスは7月、独バイエルと開発すると発表した。

CAR-T療法は肺や大腸などの固形がんにはあまり効果がみられない。課題を解決しようとする企業に山口大学発のスタートアップ、ノイルイミューン・バイオテック(東京・港)がある。

6月、米シカゴ。米国臨床腫瘍学会に社長の石崎秀信(48)がいた。「競合が多いから毎年のように参加する」。進歩が早く、情報集めが欠かせない。同社の強みは攻撃力を強めて持続させる次世代の「Prime(プライム)CAR-T」。動物実験で固形がんに効果があった。

「多くの製薬会社と提携し、技術を広めたい」。すでに武田薬品工業に2つの製品候補の商業化権を提供した。武田は19年内に治験を始める。

最新技術を使う薬は高くなりがちで、日本では国の財政圧迫への懸念も大きい。キムリアは米国で5400万円、日本で3300万円。化合物だけでつくる通常の薬と比べ、遺伝子を操作する薬は大量生産が難しい。

「1000万円を切る価格も可能かもしれない」。名古屋大学医学部の高橋義行(52)らが新風を起こそうとしている。がんを攻撃する遺伝子をT細胞に入れるとき、通常は遺伝子を載せたウイルスを細胞に入れ、感染させる。高橋らはウイルスの代わりに安い酵素を使う技術を確立した。

国立がん研究センターが18年に公表した日本のがん全体の5年生存率は65.8%。「もっと救える」。高橋たちのような熱意が世界を一歩ずつ前進させる。(敬称略)

 

                                                                     ◇

 

人類が闘い続けるがん。治療技術が変わり始めている。医師や企業、国はどうかかわっていくのか。最新の動向を追う。続きます。

 

 

・キムリアの治験に参加した中畠さんは治療から3年たった今も元気だ  (下左)

・筑波大では、がん患者の遺伝子を解析するシステムの準備が進む(6月、茨城県つくば市)

  (下右)

免疫生かす「第4の道」(ルポ迫真)

がんは克服できるか(2)

 患者の全遺伝情報(ゲノム)から最適な抗がん剤を選ぶ「がんゲノム医療」が日本でも始まった。治療の成否を握るのは、がん細胞にある遺伝子の解析。がんを制する闘いは情報戦になってきた。

 栃木県小山市に住む58歳の男性は、肺がんの治療に一筋の光を見いだした。自治医科大学付属病院(同県下野市)でがんの遺伝子を検査し、ある変異が見つかった。この変異が、がんを生む酵素をつくっていた。酵素の働きを抑える抗がん剤を新たに使い始めると「がんが縮んで見えなくなった」(萩原弘一教授)。今も投薬を続けている。

正常な細胞の遺伝子が傷つくとがんになる。遺伝子の異常は人によってまちまち。わずかに違うだけで抗がん剤が効かない。無駄な薬を使い続けても、時間を浪費するばかり。副作用のリスクにもさらされる。

6月、厚生労働省が動く。患者のゲノムを調べる中外製薬シスメックスの検査法を初めて国の保険対象に決めた。患者の負担は数万~十数万円と、自由診療だった以前の3分の1以下になった。中外製薬は約300個の遺伝子異常を調べる。「最適な薬を見つけやすい」(中外製薬)。親会社のロシュグループが米国などで検査を手掛けている経験を生かす。シスメックス社長の家次恒(69)は「日本でも(一人ひとりの)個別化医療が始まる」と意気込む。

ただ、毎年新たにがんになる約100万人のうち、国の保険が使えるのは既存の治療で治らない患者や希少がんを患った人などの約1万人のみ。そのうち、遺伝子に合った薬が見つかるのは1千人程度とされる。

保険財政への影響の議論は残る。それでもより多くの人にゲノム医療の恩恵をもたらしたいと研究は熱を帯びる。慶応義塾大学は全ての手術患者を調べ、検査法を磨く。検査は大腸がんや乳がんなど毎月約100人に上る。研究目的で無償だが「結果は主治医に伝え、抗がん剤の選択に役立てる」と教授の西原広史(48)は話す。

慶大は別の検査法で約100万円かかる自由診療を始めた。8月から遺伝子の解析を担うのが筑波大学だ。最新鋭機を3台並べ、細胞を扱う2本のロボットアームも出番を待つ。筑波大学特命教授の佐藤孝明(59)は「装置の能力は十分。年間20万人を解析できる」と胸を張る。

 

様々な検査法が生まれるが、ゲノムは究極の個人情報。身近な医療になれば、情報管理の責任も重くなる。(敬称略)

皆さん、朗らかなお正月をお過ごしになったことでしょう!

さて、がん患者もがんサバイバーも『生き生きと生きる』世の中でありますようにと願います。男性は3人に2人ががんに罹患する時代です。予防もさることながら早期発見、早期治療の時代となってきましたね!

がん社会を診る

自己検査で罹患が発覚

中川恵一                                           

2019年(平成31年)1月9日水曜日  日経夕刊

イラスト;中村 久美
イラスト:中村 久美

 私もがん患者の仲間入りをしました。アルバイト先の病院に超音波検査装置があり、自分自身でぼうこうのエコー検査をして腫瘍を発見したのです。青天のへきれきでした。

 東京大学医学部の先輩の病院で、若い頃から毎月、当直の仕事をしてきました。2年ほど前に肝臓に脂肪がたまる脂肪肝を自分で見つけて以降、毎月エコー検査を自分でしてきました。

昨年9月ごろからぼうこうの左側の壁が多少厚く見えていました。そこで、先月は尿をためた上で入念にチェックしてみました。左の尿管とぼうこうのつなぎ目である「尿管口」の近くに15ミリメートルくらいの腫瘍ができていました。

検査結果の写真を撮って後輩の泌尿器科医にメールで送信すると、「ぼうこうがんの可能性が大きい」と返事が来ました。翌日、同じ医師に内視鏡検査をお願いし、ぼうこうがんがほぼ確定しました。

日本人男性の3人に2人ががんになる時代ですから、「がんになることを前提にした人生設計が必要」などと発言してきました。しかし私はたばこは吸いませんし、運動は毎日していて、体重も若い頃のままです。正直、まさか自分が罹患(りかん)するとは思っていませんでした。

ぼうこうがんは人口10万人あたり10人程度の発生率です。男女比は3対1で男性に多く、60歳以上の高齢層に多くみられます。危険因子としてはっきりしているのは、特定の化学物質を除けば喫煙だけです。男性のぼうこうがんの50%以上、女性でも30%程度は喫煙が原因で発生するといわれます。コーヒーについては結論が出ていませんが、大きな影響はないと考えてよいと思います。

非喫煙者の私がぼうこうがんにかかる明確な理由などありません。運が悪かったとしか言えないと思います。ぼうこうがんでは肉眼や顕微鏡で確認できる血尿が8割の患者でみられ、早期発見のカギになりますが、私の場合は陰性でした。

自分自身で行った検査が早期発見につながりましたが、一般の方にはもちろん不可能です。しかし自分の体を守るため、できることはなるべく行う方がよいという教訓にしてもらいたいと思います。

次回はがん専門医の私が受けたがん治療を解説します。

(東京大学病院准教授)

 

がんデータ公開で日米格差 

向きき合う~国際医療経済学者、アキよしかわさん(3)

2018/6/18 情報元 日本経済新聞 コラム(社会)向き合う

  私も同じ手術を受けています。

がん医療の見えるかを実現、病院間の競争を促し、がん医療の均てん化と質の向上を導くという手法は是非日本に導入願いたいものですね‼

1958年神奈川県生まれ。米カリフォルニア大学バークレー校卒。経済学博士。同校国際経済研究所、米国議会技術評価局を経てスタンフォード大学で医療政策部を設立。グローバルヘルス・コンサルティング会長。近著に「日米がん格差」。.png
1958年神奈川県生まれ。米カリフォルニア大学バークレー校卒。経済学博士。同校国際経済研究所、米国議会技術評価局を経てスタンフォード大学で医療政策部を設立。グローバルヘルス・コンサルティング会長。近著に「日米がん格差」。.png

  大腸がんが進行した病期(ステージ)3Bと最終的に診断された私は腹腔(ふくくう)鏡手術を受け、現在も講演やコンサルティング会社の仕事も続けている。私は仕事柄、医療に精通した友人や同僚が多く、恵まれた治療を受けたと思う。だが私と同じような治療を施されない人もいるはずだ。

   米国では医療の質の均てん化と向上を実現するため厳密な診療ガイドラインがある。米国臨床腫瘍学会(ASCO)や米国外科学会などはガイドラインが守られているか調査し、その結果を病院の質の指標(臨床指標)として公開している。

  米国のメディケア(連邦政府の高齢者向け公的医療保険制度)のデータや疾病ごとに求められたデータが広く研究者に公開されており、私たちは切磋琢磨(せっさたくま)し分析に励んでいる。

   米国のがんのデータベース(NCDB)は1988年に、米国外科学会のがん委員会と、非営利の米国対がん協会が共同で構築した。能動的な学会と志の高い非営利団体の共同プロジェクトは米国らしい民間主導での快挙といえるであろう。

 NCDBは医療機関からデータを受け取るだけではない。データを分析し、成績を「レポートカード」として各医療機関に還元している。レポートカードには標準治療(診療ガイドライン)の準拠率も含まれている。

   病院は提出したデータが真実に基づいた正確なものであるかどうかを、NCDBによって抜き打ちで監査されている。データに不正があったり、成績が悪かったりすると、「がん拠点病院としての資格を失う」という厳しいペナルティーが科されているのだ。資格を失えば、病院にはがん患者が集まりづらくなり、がん医療では他の病院に大きく遅れることになる。

 病院はNCDBの成績をインターネットや市民講座で公表できる。当然、成績の良い病院は積極的にデータを公表するので、事実上、データは公開されているも同然だ。

 実証的なデータ分析を行う際、まず必要なのは信頼できるデータベースだ。ベンチマークとデータ公開によってがん医療の見える化を実現し、病院間の競争を促し、がん医療の均てん化と質の向上を導くという手法は日本でも導入すべきではないであろうか。

 

 

抗がん剤治療は米ハワイのがん拠点病院クイーンズメディカルセンターのキーマン、ポール・モーリス外科部長(左)に相談した.png

放射線治療支える医学物理士

『イラスト:中村 久美』がん社会を診る 放射線治療支える医学物理士.png
『イラスト:中村 久美』がん社会を診る 放射線治療支える医学物理士.png

 放射線治療は手術、薬物療法と並ぶがん治療の3本柱の一つです。コンピューターや機械工学の進歩を受けて、がん病巣にだけ放射線を集中させる「高精度化」が進み、肺がんや前立腺がんなど、多くのがんで手術と同じくらいの治癒率をもたらしています。

 放射線治療のハイテク化を支えるのが「医学物理士」と呼ばれる専門職です。欧米では理学・工学博士が医学物理士として医療現場で活躍しており、その社会的地位や認知度は非常に高いものがあります。病院での業務にとどまらず、ベンチャー企業を立ち上げて新しい治療装置を開発するなど、最新の放射線治療をけん引している存在です。

しかし日本では医学物理士の認知度は十分と言えず、成り手も不足しています。多くの施設では診療放射線技師が医学物理士の業務を兼任しているのが実情で、ハイテク放射線治療の普及においては大きな問題となっています。

医学物理士の仕事を専門とする人材とポストを確保することは、日本の放射線治療にとって急務です。特に理工学系の学生や有期雇用のポスドク(博士号を持つ若手研究者)にこの仕事に興味を持ってもらうことが重要です。理工学系のポスドクの中には数学や物理学の能力に優れていながら、大学などのポストが極端に少ないため、雇用に恵まれない人たちが数多くいます。彼らは高いポテンシャルを持っていますから、日本でも多くの優秀な理工系出身者に医学物理士として活躍してもらいたいと考えています。

東大病院の放射線治療部門では現在5人の医学物理士が在籍しています。彼らのバックグラウンドは素粒子原子核物理や放射線科学など様々です。通常の臨床業務を行いながら、最新の研究にも従事しています。

その一例が、2009年に発表された東大病院による治療中に腫瘍の時間的な動きを捉える「4次元コーンビームCT」の研究です。この技術は放射線照射中の腫瘍の動きを捉えた点で放射線治療を大きく進歩させ、世界中の放射線治療装置に実装されることになりました。

まだまだ、知られていない医学物理士ですが、多くの優秀な若者が医学物理士を目指したいと思えるような環境づくりが必要です。

(東京大学病院准教授) 2018平成30年 5月30日(水曜日)日経 夕刊 くらしナビ