4人で猛追も及ばず、混合団体4位

 女子のエースの無念を振り払おうと佐藤幸、伊藤が飛び、小林陵は106mの大飛躍をみせた。意地のジャンプを重ね、最終順位は4位、どん底に突き落とされたところから4人が再び力を合わせて呼んだ執念の結果だった。 感動をする、素晴らしい4人でした。

 4人で猛追も及ばず、混合団体4位

失格ありも素敵なチームでした。

 2022(令和4年)2月8日(火曜日)日本経済新聞 朝刊   

1回目の飛躍が失格となり、声を上げて泣く高梨沙羅=張家口(共同)
1回目の飛躍が失格となり、声を上げて泣く高梨沙羅=張家口(共同)
混合団体の競技を終え、うなだれる高梨(中央右)の肩を抱く小林陵侑(同左)=張家口(共同)
混合団体の競技を終え、うなだれる高梨(中央右)の肩を抱く小林陵侑(同左)=張家口(共同)

高梨は失意の中で飛んだ2回目に98.5メートルをマークした=張家口(共同)
高梨は失意の中で飛んだ2回目に98.5メートルをマークした=張家口(共同)

 ジャンプ混合団体(ヒルサイズ=HS106メートル)で、日本は合計836.3点で4位だった。1番手の高梨沙羅(クラレ)がスーツの規定違反により1回目の飛躍が失格となったが、佐藤幸椰(雪印メグミルク)、伊藤有希(土屋ホーム)、男子個人ノーマルヒル金メダリストの小林陵侑(土屋ホーム)3人の合計359.9点で8位となり、8チームによる2回目に進出。2回目には他チームにも失格者が出たほか、小林陵が106メートルを飛ぶなどし、1回目から順位を上げた。

スロベニアが1001.5点で、10チームが出場した新種目の初代王者となった。ROCが2位、カナダが3位だった。

 

 強豪国に失格者が続出する大荒れの展開で、はるか遠かった表彰台が一人飛ぶたびに近づいた。ぎりぎりで2回目に進み、「まだ何があるかわからないっすよ」とチームメートを鼓舞した小林陵が、大トリでヒルサイズに届く106メートルの大飛躍。わずかに3位のカナダに届かなかったが、4人のジャンパーたちは絶望的な事態にも不屈の闘志を見せた。

開始間もなくアクシデントに襲われた。103メートルの好飛躍を見せた1番手の高梨に、直後の抜き打ち検査で「ジャンプスーツの規定違反」が判明する。失格となり得点はゼロ。女子のコーチらによると、両太もも回りが2センチ大きかった。個人戦と同じサイズのスーツを使いながら、トレーニングにより見込んでいた筋肉の膨張が想定よりも足りず、結果的にだぶつく形になってしまったという。

用意されたスーツを着てスタート台に立った高梨を責めることはできまい。しかし、責任を背負い込んだ女子のエースが手を顔に当て、泣きじゃくる。致命的ともいえるハンディを負い、このまま下位に沈むかと思われた日本だが、試合は意外な方向に転がった。オーストリアに続き、3番手で飛んだ女子個人銀メダリスト、アルトハウス(ドイツ)も失格。後続が諦めずに飛んだ日本がドイツをかわし、2回目進出をもぎ取った。

 「次があるから、沙羅ちゃんのジャンプして笑顔で終わろう」と佐藤幸が声をかけ、目に光るものをためながら高梨が気丈に2回目のスタート台に乗る。この組2位の高得点となる98.5メートルを飛び、追撃ののろしを上げるジャンプの後は、涙が止まらなかった。今度はノルウェーに2人失格が出て、佐藤幸も100.5メートルのジャンプを決めてひたひたと上位に詰め寄った。

「沙羅は本当に集中していいパフォーマンスができた。本当に強いなと思う」と小林陵は同い年の高梨をたたえた。「これが何かの力になると思うし、しないといけないと思った」と佐藤幸。新種目の初代のメダルこそ逃したが、折れぬ心は見せた。これが日本ジャンプ界の肥やしになり、いつか花開くと信じたい。

(西堀卓司)