地震で転倒防ぐ、家具固定進まず!

                   2019/1/30付 情報元 日本経済新聞 夕刊

 賃貸物件の『ねじ穴補修』がネックになっているのか?

 まだ、残念ながら家具固定に際し心理的ハードルが高いのか?

 いずれにしても家具の固定で『命』を守れた可能性が高かったのは確かです。

 あなたの家は、大丈夫ですか?

 大阪北部地震で被災した住宅内から家具などを運び出すボランティア(2018年6月、大阪府茨木市)

  主な家具転倒防止の方法


 地震の人的被害を防ぐ対策として国が推奨する「家具固定」が進まない。理由の一つとされるのが、賃貸住宅で退去時にネジ穴を補修しなければならないという懸念だ。公営住宅で補修を求めないことにした自治体もあるが、反応はいまひとつ。壁に穴を開ける行為への心理的ハードルを乗り越えるには、社会全体でとらえ方を変える必要がありそうだ。

 

 2018年6月の大阪北部地震。大阪府などによると、死亡した6人のうち半数の3人が自宅で本棚などの下敷きになって圧死したとみられる。府危機管理室の担当者は「家具を固定していれば被害が防げた可能性はある」と悔やむ。

揺れに備えて冷蔵庫や棚をL字金具などで留める「家具固定」は、家庭でできる防災の基本だ。南海トラフ地震の防災対応を議論した政府の中央防災会議部会でも重要性がたびたび指摘された。

それにもかかわらず、内閣府の調査で「実施済み」と答えたのは17年度に41%。09年度の26%が東日本大震災後の13年度は41%に伸びたが、その後は横ばいが続く。

原因の一つと指摘されるのが賃貸住宅に付き物の「原状回復義務」だ。賃貸住宅は退去する際、通常の生活で付かない傷は元通りに修復しなければならない。日本賃貸住宅管理協会(東京)の担当者は「家具固定のクギやネジの穴は基本的に借り主が補修することになる」と話す。

根拠となるのが国土交通省が作ったガイドラインだ。エアコン設置のビス穴については「借り主の負担は不要」と明記する一方で、家具転倒防止の措置は「あらかじめ貸主の承諾を得るか、クギやネジを使用しない方法などの検討が考えられる」としている。

「入居者は自分の生命を守るための費用を自分で負担しないのか」という貸主側の主張もあり、同省の担当者は「(借り主の負担は不要と)踏み込んで記載するだけの材料がない」と漏らす。

一方、防災の法務に詳しい中野明安弁護士は「家具固定のネジ穴はエアコン設置のビス穴の考え方と同様、退去時に補修する必要のない通常損耗にあたる」と指摘する。「国や自治体は及び腰だが、家具固定を本気で進めたいならガイドラインへの明記が不可欠だ」とハッパをかける。

見解が分かれるなか、東京都港区は17年4月から、公営住宅の家具固定の穴は「元に戻す必要はない」という施策を始めた。「まず公営住宅から始めて民間の賃貸住宅にも広まれば」と港区の担当者は狙いを語るが、事業開始から1年半がたっても、家具固定の申請は約870戸のうち10戸に満たない。

賃貸住宅に限らず、持ち家でもネジ穴が転売時の価値低下につながる恐れが心理的なハードルになる。「きれいな壁に穴を開ける抵抗感や面倒さに比べて、いざやろうというきっかけがない」。10年度から家具固定を重点テーマに掲げる愛知県危機管理課の担当者はこう指摘している。

(山田薫)