文化財  地震から守れ

 大地震から文化財の建造物を守る耐震補強工事が各地で進めれている。外観を維持するため壁の裏側で補強するなど工夫を凝らす。課題は工事費の調達で、市民から寄付を募ったが目標額に届かず取り壊されたケースも出ている。関係者は『次世代に文化財を残すには、多くの市民がその価値を共有することが大切だ』と指摘している。

重文の講堂外観変えず補強

 自由学園明日館の講堂(東京・豊島)は、旧帝国ホテルを設計した米建築家、フランク・ロイド・ライト(1959年没)の弟子、遠藤新(51年没)が設計した。

 築90年の重要文化財で、高さを抑えて地をはうようなたたずまいが特徴だ。結婚式会場やコンサートホールとして活用されてきたが、大地震に耐えられないと判明。現在、半解体して耐震補強工事をしている。

 遠藤の設計は、独特で、外壁だけでなく、内側の下がり壁で屋根を支える。下がり壁を補強するため、施工業者は狭い鋼材を手で持って入り込み、壁の裏側からボルトで取り付けた。外からは全く見えないようにした。

 実は解体時に屋根が少し落ちいこんでいることも判明。下がり壁の手法は当時の材料では無理があったようだが、明日館の福田竜さんは「鋼材で補強することで、遠藤の設計思想を大事にできる」と強調する。

 

資金難で解体の建物も

 文化庁によると、国宝や重要文化財に指定されている建造物は全国に約2,400件ある。同庁は阪神大震災や東日本大震災多くの文化財が失われたのを機に耐震化の指針を策定。指針に沿って補強工事をする所有者には補助金がでるが、資金不足のケースも目立つ。

 山形県鶴岡市の致道博物館にある重文「旧鶴岡警察署庁舎」は明治期の儀洋風建築物だ。事務所として使っていたが、建物が傾き、保存修理と耐震補強の工事をしている。総事業費は約5億円で、国などから9割程度の補助を受けた。同館が残りを負担するが、本間豊・学芸部長は「地方の博物館に財政的余裕はない」と明かす。寄付は集めているが、目標の1億2千万円にまだ届かない。

 工事終了後は内部を公開し、イベントにも活用する考えで照明や空調も必要になる。本間さんは「文化財は市民のものだ。何とか資金を工面したい」と話す。

 静岡県下田市の国登録重要文化財「旧南豆製氷所」は14年に解体され、跡地には15年秋、商業施設ができた。「町のシンボルに成り得たのに」。保存活動に関わった田中豊・下田商工会議所会頭は残念がる。 

 旧南豆氷所は1923年に完成し下田の漁業を支えたが、04年に閉鎖された。改修や耐震化の工事費用のめどがたたず、軟らかい伊豆石の建物は崩壊の恐れがあるままで劣化し、危険だとして解体された。

 田中会頭らは資金を募ったが、目標額には及ばなかった。「産業遺産は市民にあまり身近ではなく、残す価値があるのかいう懐疑的な意見もあった。文化財として残すには市民の理解が不可欠だ」と話している。

日本経済新聞2017年(平成29年)1月5日(木)社会

 

所感:古田アーキテクト

 文化財が失われてしまうのは問題ですが、戸建木造住宅で大地震による倒壊で、『家族の命』が、失われてしまうことが問題です。特に高齢者は、大地震発生時の対応が直ぐに出来ませんから、どんなに高価で素敵なトイレやお風呂・キッチン、等の設備機器も、大地震による倒壊を防げず『家族の命』を守れません。