減災のこと、本音で話そう

名古屋大学減災連携研究センター長         福和伸夫 様

 「減災のこと、本音で話しませんか」。自治体の幹部や官僚、企業担当者らと知り合うと、私はそう声をかける。南海トラフ巨大地震や首都直下地震は、いつ起きてもおかしくない。

 被害は、広域に及び、自治体をまたいだ避難者の受け入れや輸送路の確保、物資の調達が不可欠になる。

 だが、自治体の地域防災の多くは「わが町だけ」の内容にとどまり、省庁や自治体とインフラ企業や研究者との連携は乏しい。

 今年1月、私は名古屋大減災連携研究センターに愛知県西三河地方9市1町の副市長と副町長計10人を集めて実験をおこなった。各市町村に自分の街の地図を持ち寄ってもらい、つなぎ合わせて西三河全域の地図をつくる。それをセンター1階の床面に投影させ、吹き抜けの2階部分から一緒に眺めてみる、という試みだ。

 目を引いたの、災害時に各防災拠点を結ぶ「緊急輸送道路」が複数の市町の堺でブツリ、ブツリと途切れ、緊急輸送道路が緊急輸送ネットワークとして機能してないことだ。自治体による指定が遅れていることが原因だが、自治体間で情報が共有されておらず、福市町らも驚いていた。役所や病院、避難所などの防災拠点も各市町村が勝手に配置しているため、アクセスに難がある場所がいくつも見つかった。     

 9市1町は「西三河防災減災連携研究会」として、防災協力の議論をしている。それでも課題が見つかるのだから、他地域ではより多くの本題店が見つかったに違いない。

 大地震から国民を守るためには自治体単位の防災計画を改め、複数の県をまとめた「ブロック」を防災の単位として、電気やガス、物流インフラ企業や省庁の出先機関を巻き込んだ組織を作り、対策を練る必要がある。

 私は2年半前、自治体やトヨタ自動車、中部電力、東邦ガスなど地域の中核企業の担当者と「本音の会」を立ち上げた。月に1回集まり、自分たちの地域を守るのにできること、できないこを本音でぶつけ合い、真の減災連携を探るのが目的だ。会に加わる自治体は東海圏に広がり参加企業は30社を超えた。

 参加企業間で防災協力を始めたり、企業が独自に井戸を掘ったりする成果も出ている。東海圏は人口規模では国内3番手だが、自立力は高い。この地から地域防災のモデルケースを作りたいと考えている。

 

                      日本経済新聞 2016(平成28)年11月28日(月)

                       私見卓見  OPINION に寄稿