「首都直下地震」はいつ起きてもおかしくない 「巨大地震や噴火」がなぜ各地で相次ぐのか

後藤 忠徳(ごとう ただのり) Tadanori Goto
京都大学大学院工学研究科准教授

あなたの家は大丈夫ですか!?

 

一読の価値あり!

そうなんです『首都直下地震』はいつ起きてもおかしくないんです。

東日本大震災から7年以上が経過しました。震災発生当時は、非常食や飲料水を買い揃えていた人も多かったのですが、最近は防災意識が薄れつつあります。近年、日本を襲う大地震は確実に増え続けています。日本列島に住む私たちは、地震や火山噴火などの自然災害から逃れることはできません。中でも、東海から西日本の太平洋岸沖合で発生する"南海トラフ巨大地震"とともに心配されているのが、首都直下地震。4年以内に起こる確率は70%と発表されたこともあるのです。

このような地震・災害を予測し、防ぐことはできるのでしょうか。拙著『日本列島大変動』をもとに首都直下地震の可能性について分析します。

4年以内に70%? 首都直下地震

南海トラフ地震とともに、国の根幹を揺るがしかねない災害として心配されているのが、「首都直下地震」です。

首都直下地震は「今後30年以内に70%の確率で起きる」と想定されていました。この予測は、地震の起き方の法則として古くから知られている「グーテンベルグ・リヒター則」にのっとって計算されたものでした。

ある地域で大きな地震が起きると、その近くでは最初の大きな地震(本震)よりも小さな地震が連続して起こります。いわゆる「余震」ですが、この余震の大きさは、マグニチュードが1小さくなるごとに、発生回数が約10倍になることが知られています。「地震の発生回数は、マグニチュードの大きさに反比例する」、これが「グーテンベルグ・リヒター則」です。ドイツの地震学者ベノー・グーテンベルグとアメリカの地震学者チャールズ・リヒターが発見したことから、2人の名前を取って、このように呼ばれています。

この法則は、東京都とその周辺で日常的に起きる地震活動についても、おおむね成り立っています。たとえば1965年から2010年までの45年間で、東京・千葉周辺での地震(震源の深さは100キロより浅くマグニチュード3以上)はあわせて約3000回起きています。このうちマグニチュード4程度の地震は約200回、マグニチュード5程度が約20回起きましたが、マグニチュード6になると5回程度です。

この流れのままなら、マグニチュード7以上の地震は、平均して約25年ごとに1回ほど起きる計算になります。幸い、この期間中には東京・千葉周辺では起きませんでしたが、「今後30年以内にマグニチュード7の地震が首都圏で発生する確率は70%」というのは、このような地震の発生頻度から計算されたのです。

2012年1月、東京大学地震研究所のチームが「4年以内に首都圏でマグニチュード7クラスの地震が70%の確率で起こる」と発表したことが、新聞やテレビで大きく報道されました。東京から神奈川にかけての南関東では、東日本大震災後の半年間、マグニチュード3以上の地震の発生頻度が以前の7倍程度にまで増えていました。その結果をグーテンベルグ・リヒターの法則に当てはめたところ、「4年以内に70%」という数字が導き出され、東日本大震災が起こった影響で首都直下地震が起きる確率が高まった可能性があると発表されたのです。

この予測から6年以上が経った2018年5月現在、首都直下地震は起こっていません。しかしそれは「予測が外れた」という意味ではないのです。先に述べた「4年以内に70%」という地震発生確率は、東北地方太平洋沖地震の発生直後から半年後までの、非常に活発な地震活動のみから計算したものでした。最近の首都圏での地震活動はその頃に比べれば低くなりましたので、そこまで高い確率で首都直下地震が起きるとは考えられていません。

 

過去90年間に日本で観測された大地震の回数。マグニチュード7、震度5以上の地震の発生回数を10年ごとに区切ったグラフで直近10年間の回数が非常に多いことがわかる。(グラフ:『日本列島大変動』より。ポプラ社提供)

しかし、地震活動が元のレベルに戻ったわけではありません。

東北地方太平洋沖地震の前の3年間に首都圏では約300回の地震(マグニチュード3以上)が発生していましたが、2014~2017年の3年間では約400回に増えていて、地震活動は以前よりも高まっています。グーテンベルグ・リヒター則の計算式が正しいとするならば、首都直下地震の発生確率は下がりはせず、むしろ上がっていると考えられるのです。

予想される地震には5つのタイプがある

さて、「首都圏で想定される巨大地震」と一口に言っても、そのタイプは5種類もあります。

1 地表近くの活断層による地震
2 フィリピン海プレート上面に沿うプレート境界地震
3 フィリピン海プレートの中の内部破壊による地震
4 太平洋プレート上面に沿うプレート境界地震
5 太平洋プレートの中の内部破壊による地震

このうちの1のタイプは陸地の活断層がずれることによって起こる地震で、阪神・淡路大震災と同じタイプの内陸型地震、いわゆる直下型の地震です。最近の調査によれば、東京の周辺には将来地震を起こしうる大小の活断層が、現時点で少なくとも7つは判明していて、そこにはマグニチュード7・4程度(立川断層帯)やマグニチュード8程度(深谷断層帯・綾瀬川断層帯)を起こしうる活断層も含まれています。

文部科学省の地震調査研究推進本部の長期評価では、関東山地~関東平野の活断層が30年以内に大地震を起こす可能性を11%程度と見積もっています。これは熊本地震発生前に見積もられた、九州中部地方の大地震発生確率(18~27%程度)よりは低いものの、かなり高めの値であると言えるでしょう。

首都直下地震の2のタイプは、三浦半島と伊豆半島の間、相模湾の海底にのびている溝状の地形「相模トラフ」のプレート境界で起こる、プレート境界地震です。相模トラフではフィリピン海プレートが関東地方の下に沈み込んでいて、陸側・海側の2つのプレートの間は大断層(プレート境界断層)になっています。

相模トラフから首都圏の真下へとのびるプレート境界断層を境にして、陸側のプレートが海側のプレートの上に乗り上げるようにずれ動くことで地震が発生します。1923年に起こった関東大震災(大正関東地震)は、このタイプの巨大地震です。関東大震災では100万をはるかに超える人々が被災したと考えられており、10万人以上が地震にともなう住居の崩落と火災で亡くなっています。

なお、「大正関東地震」は地震名であり、「関東大震災」はそれによって発生した災害の名前です。名前が2つある理由は「地震の起き方」と「地震災害の起き方」に違いがあるためです。地震は自然現象であり、地震の発生開始場所(震源)は比較的狭い地域に限られます。大正関東地震の震源地は神奈川県でした。

 

一方、揺れによる直接的な被害に加えて、津波・地すべり・人為的要因等による間接的な被害など、地震災害は広範囲に複雑に及ぶため、震災名を別途設ける場合があるのです。関東大震災では揺れ・火災・津波などの被害が群馬県や静岡県にまで及びました。

 

東京を中心とする関東地方の南部では、200年から400年に1度、この関東大震災と同じタイプの、プレートのズレによるマグニチュード8クラスの巨大地震が起こっています。1923年の前は1703年に起きた元禄地震で、間に200年ほどの期間があります(ちなみにこの地震のちょうど1年ほど前に、有名な赤穂浪士の討ち入りがありました)。関東大震災からまだ100年ほど経過しただけですから、「今度、首都圏を地震が襲うとしても、プレートのひずみがたまる2100年代に入ってからだろう」と考える地震学者は多数います。

沈み込んだ後のプレート内部でも地震は生じます。3と5のタイプですが、これらは「スラブ内地震」とも呼ばれています(沈み込み後のプレートは別名スラブともいいます)。プレートの境界ではプレート同士の摩擦のためにひずみがたまりますが、このときプレートの内部にもひずみはたまっています。南関東のマグニチュード7程度の地震5例のうち、4例はこのタイプの地震と考えられています。

また4のタイプは、関東の陸地やその下のフィリピン海プレートと、これらのさらに下にある太平洋プレートがこすれることによって起きる地震です。フィリピン海プレートは南から、太平洋プレートは東から沈み込んでいて、フィリピン海プレートの下に太平洋プレートが位置しています。2のタイプと同じく、プレート境界は大断層になっていて、ここでもひずみはたまっているのです。

 

東日本大震災の後、断層にかかる力の様子は変わった?

しかし東日本大震災のあと、プレート境界断層や内陸活断層にかかる力の様子は大きく変わったのではないかといわれています。このうち関東地方にタイプ2の地震を引き起こすプレート境界断層について少し詳しくみてみましょう。

関東地方におけるプレート境界断層の接着。陸側のプレートと海側のプレートが互いに強く接着している場所(斜線部分)が陸上の調査から推定された(イラスト:『日本列島大変動』より。ポプラ社提供)

地図などを作成している国土地理院は、日本各地で地面が年々移動している様子を調べていて、このデータからプレート境界断層の状態を推定しています。

それによると、房総半島の地下ではプレート境界断層を境にして陸側のプレートと海側のプレートが互いにがっちりと噛み合って、プレート同士がくっついた状態であることがわかりました。

海側のプレートが陸側のプレートを押し続けている状態であり、いずれはそこが震源となる巨大地震が起きると考えられています。

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また先ほども述べましたが、活断層のズレによって起こる直下型の地震は、いつ起こるかがまったくわかりません。元禄地震や関東大震災のタイプの地震の前には、マグニチュード7クラスの地震が何度か起きたことはよく知られています。

たとえば関東大震災前の100年間に、南関東地方ではマグニチュード7程度の地震が7回も発生しています。次のプレート境界地震が起きるまでまだ100年あるとすると、その前のマグニチュード7地震の発生時期にそろそろさしかかっていてもおかしくはありません。さらに、先ほど挙げた活断層のほかにも、首都圏の近くにひずみを蓄えた「未知の活断層」が眠っている可能性は十分にあると考えられているのです。

このような日本列島の大変動時代に、私たちはどう立ち向かえばよいのでしょう? まずは私たち自身がどんな地域に住んでいるかを知ることから始めましょう。地震危険度チェックリストを用意しましたので、ぜひご自身で調べてみてください。