グラフィックス・砂場章利
グラフィックス・砂場章利

 まさか・・・(2)

 

超巨大災害 まさか…  破局的噴火

大地が消失

 

2018(平成30)年 8月20日 月曜日 日本経済新聞 朝刊

まさか・・・

  20××年9月、九州の沖で巨大な噴煙があがった。「破局的噴火」の始まりだった。

 

  噴火の規模は桁違いに大きい。地下のマグマが数時間から1週間ほどで一気に噴き出す。その量は明治維新以降日本で最大だった1914年の桜島(鹿児島県)大正噴火の数百倍に達する。

 マグマがなくなった地下の空洞は崩れ、直径10キロメートル以上にわたって地面が陥没。鍋底のような「カルデラ」という地形ができる。カルデラ噴火とも呼ぶのはこのためだ。

 日本では過去12万年に10回の破局的噴火が発生し、北海道と九州に集中する。最後は約7300年前の縄文時代に九州南方沖の鬼界カルデラで起きた。神戸大学の巽好幸教授は2月、鬼界カルデラで採った岩石の成分が7300年前とは違うことから「新しいマグマがたまっており、破局的噴火の準備段階に入った恐れがある」と発表した。

 世界有数のカルデラである阿蘇山は、約27万年前から約9万年前に4回の破局的噴火を繰り返した。国内最悪の被害が懸念されるのは「九州中部の発生」(巽教授)だ。

 海外のカルデラでは、米イエローストンやイタリアのカンピ・フレグレイが1年に数十センチメートルも隆起している。大量のマグマがたまりつつある兆候で、破局的噴火が近いと考える研究者もいる。

 だが、各地のカルデラは過去の痕跡にすぎない。火山国の日本では「どこで起きてもおかしくない」と産業技術総合研究所の下司信夫大規模噴火研究グループ長は話す。

 

 数時間もしないうちに、海を越えて九州を巨大な火砕流が襲った。

 

 巨大な噴煙はセ氏数百度にもなる火砕流に変わる。時には時速100キロメートル以上で海を渡る。1000メートル級の山を越え、100キロメートル以上先の都市をのみ込む。阿蘇山の火砕流が福岡市に到達するまで2時間とかからない。鬼界カルデラの破局的噴火後1000年近い間、九州南部に人が住んだ痕跡は見つかっていない。

 海底火山の破局的噴火では、海水を大きく揺らす。鬼界カルデラの噴火では九州南端に高さ30メートルの津波が押し寄せた。

 1815年に起きたインドネシア・タンボラ火山の破局的噴火では火山灰が太陽光を遮り、欧米で異常な冷夏を引き起こした。大飢饉(ききん)を招き、欧州だけで20万人以上の死者が出たと推定されている。

 

 大量の火山灰は首都圏にも降った。都市機能は完全にマヒした。

 

 九州で起きた破局的噴火の火山灰は、偏西風に乗って東へ向かう。「関西で数十センチメートル、首都圏で10~20センチメートル積もる」と巽教授は予想する。

 スリップや視界不良の恐れから、高速道路は通行不能になる。火山灰で送電線がショートし、停電も多発。火力発電所や浄水場の運転が長期間止まる危険性も高い。

 富士山噴火の影響をまとめた国の報告書では、降灰量を東京で数センチメートルと推定する。それでも経済被害は最悪で2兆5200億円と見積もる。破局的噴火の影響は計り知れない。

(編集委員 小玉祥司、藤井寛子)

 まさか・・・

 

超巨大災害 まさか… (1) M8の連鎖 富士山噴火

 

2018(平成30)年 8月6日月曜日 日本経済新聞 朝刊

グラフィックス・安藤智彰

 まさか・・・

 20××年。東京都内に住む夫婦は床から突き上げる衝撃で目が覚めた。

 約100年ぶりの大地震だった。

 

 相模湾から房総沖に至る相模トラフ沿いは、日本列島が乗る陸のプレート(岩板)と海のプレートがせめぎ合う。日ごろからひずみがたまり、耐えきれなくなると一気にずれ動く。

 マグニチュード(M)7.9の関東大震災(1923年)以降は静かだが、国は30年以内にM8級が起きる確率をほぼ0~5%と見積もる。被害を考えると、確率は小さくはない。

 

  数年後、首都機能が戻らぬ中で、西日本を激しい揺れが襲った

 

 静岡県駿河湾沖から九州沖にのびる南海トラフ沿いは、100~200年の間隔で大地震を繰り返してきた。前回から70年以上が過ぎた。

 国が30年以内に70~80%の確率とみるM8~9級が発生したらどうなるか。最悪の場合、愛知や兵庫、高知など10県を震度7の激震が襲う。11都県に10メートル以上の津波が押し寄せる。死者・行方不明者は約32万人。避難者は1週間後に950万人に達する。

 2011年の東日本大震災でも、M9.0の一撃が甚大な被害をもたらした。だが、日本列島の脅威は単独の地震に限らない。危惧するのは大地震の連鎖だ。

 巨大地震は地殻にかかる力のバランスを乱す。04年にスマトラ島でM9.1の地震が起き、3カ月後にM8.6の地震が発生。今も余震が続く。

 専門家は「相模トラフ地震が南海トラフへ全く影響がないとはいえない」という。歴史が物語る。1495年の相模トラフ地震の3年後、南海トラフがずれ動いたとされる。1703年の相模トラフ地震の4年後は南海トラフ地震が起きた。

 産業技術総合研究所の宍倉正展グループ長は「歴史上は連鎖している。偶然とはあまり思っていない」と指摘する。

 

  相模トラフ地震で無事だった東京湾岸のタワーマンションが左や右に1メートルも揺れた。

 

 大地震の連鎖は、先に被災した地域の復興を妨げる。地震の規模が大きくなると、「長周期地震動」という一往復に2秒以上かかる揺れが遠く離れた高層ビルをゆっくりと揺さぶる。東日本大震災では震源から約770キロメートル離れた大阪市で55階のビルが揺れ、エレベーターが壊れた。

 

  復興を急ぐさなか、富士山で噴煙が上り始めた。

 

 1707年の南海トラフ地震(宝永地震)の49日後、富士山が噴火した。古文書には「地鳴りが続き、夜に雲が黒くなった」などの記述が残る。

 気象庁気象研究所の小林昭夫室長は「噴火は地下に十分なマグマが蓄積し、準備ができていたところに地震が引き金となった可能性がある」と指摘する。藤井敏嗣東京大学名誉教授は「今の富士山の状態も、いつ噴火してもおかしくない」と話す。

(藤井寛子) 

 

 

 

地震予測には疑問」「津波対策取るべき」

東電福島事故、旧経営陣の公判開始1年 回避可能性証言割れる

 

爆発の傷痕が残る福島第1原発3号機(福島県大熊町、17年2月撮影)
爆発の傷痕が残る福島第1原発3号機(福島県大熊町、17年2月撮影)
                                2018/7/23付 情報元 日本経済新聞 朝刊 福島第1原子力発電所事故を巡り、業務上過失致死傷罪で強制起訴された東京電力旧経営陣3人の公判が始まって約1年が過ぎた。争点は巨大津波の襲来を予見し、有効な対策を取ることができたかどうか。今春からは証人尋問が本格化し、東電社員や地震・津波の専門家らが次々と出廷、証言したが、事故回避の可能性などに関する見方は割れている。公判でポイントとなっているのは、政府の地震調査研究推進本部(地震本部)が2002年にまとめた地震発生可能性の「長期評価」。太平洋側の日本海溝沿いで巨大地震が発生しうると指摘していたが、旧経営陣3人は「長期評価は信頼性が低く、直ちに対策を取るのは不可能だった」として無罪を主張している。

証人尋問では、津波対策を担う「土木調査グループ」に所属していた東電社員が長期評価について「専門家が支持しており、津波対策に取り入れるべきだと思った」と明言。グループにいた別の2人も「著名な研究者でつくる国の組織がまとめた見解。対策に取り入れずに国の安全審査を通過するのは難しい」などと述べた。

 グループの社員らは08年6月、福島第1原発に最大15.7メートルの津波が襲来するとの試算を武藤栄元副社長(68)に報告。武藤氏は防潮堤設置の許認可手続きなどを調べるよう指示したが、翌月には「さらに研究を続ける」として対策を見送ったという。社員の1人はその時の心境を「対策を進める方向だと思っていたので、力が抜けた」と振り返った。

 実際に福島第1原発を襲った約13メートルの津波について想定と異なっていたなどと述べたが、「対策をして津波を防げたかといえば、それは違う」「何かできたことはあったと思う」と見方は割れた。

 公判は地震本部内の部会長として長期評価の議論をとりまとめた島崎邦彦・東京大名誉教授も出廷。部会の専門家から長期評価の信頼性に異論は出なかったと強調し、「長期評価に基づいて対策を取っていれば事故は起きなかった」と述べた。

 一方、津波工学の専門家として津波対策に携わってきた今村文彦・東北大教授は、長期評価について「無視できないが内容には疑問がある」とし、対策に踏み出す根拠としては限界があったとの見方を示した。

 

今秋にも被告人質問 16年2月、3人強制起訴

  東電福島第1原発事故を巡って業務上過失致死傷罪に問われたのは勝俣恒久元会長(78)、武黒一郎元副社長(72)、武藤栄元副社長(68)の3人。起訴状によると、津波による重大事故を予見しながら原発の運転を続け、事故で長期間の避難を余儀なくされた入院患者らを死傷させたとされる。

 3人について東京地検は不起訴としたが、検察審査会は2014年に「起訴相当」、15年に「起訴すべきだ」と議決。検察官役の指定弁護士が16年2月に強制起訴した。

 17年6月30日の初公判で、3人は事故を謝罪した上で「事故を予見することは不可能だった」などと無罪を主張。18年1月の第2回公判以降、証人尋問が続いており、今秋にも被告人質問に移る見通しだ。

 

自治体「防災対策見直す」
北海道沖M9級地震 30年内7~40%

2017/12/20付
情報元
日本経済新聞 朝刊

北海道東部の千島海溝で今後30年以内に7~40%の確率でマグニチュード(M)9級の超巨大地震が起きる――。政府の地震調査委員会が19日、「(発生は)切迫している可能性が高い」との予測を公表した。地元自治体は「いざという時に備えたい」と警戒を強めた。「全員避難は無理」と困惑する高齢者施設の担当者もいた。

調査委は平均340~380年の間隔で繰り返してきたとみており、前回の発生から約400年が過ぎている。今回の北海道東部沖では発生間隔が100~800年とばらつき、30年以内の発生確率は7~40%と幅がある。津波の高さなどは分析を続けている。平田直委員長は「東日本大震災のような大きな地震が北海道でも起こり、津波が発生する可能性を覚えておいてほしい」と語った。

 公表を受け、北海道危機対策課の担当者は「発表された発生確率は決して低い数字ではない。国の動きを見ながら防災対策を見直したい」と気を引き締めた。

 2003年に起きた十勝沖地震や11年の東日本大震災などの教訓から北海道の太平洋側の全市町村がハザードマップ(防災地図)を作製。担当者は「道民や市町村には改めて緊張感を高めてもらいたい」と求めた。

 釧路市は13年、津波の第1波が到達するまでの30分間に避難する計画を冊子にして市民に配布。中山朗生・防災危機管理監は「今回の評価で慌てることはない」と冷静だ。広尾町は16年に備蓄品を拡充したが、担当者は「さらに量を増やす必要がありそうだ。予算が確保できるか……」と不安を漏らす。

 高齢者施設にも動揺が広がった。「全員を屋外に避難させるのは不可能だ」。海岸線から約200メートルの位置にある根室市の有料老人ホームの施設長は戸惑いを隠せない。

 毎年避難訓練をしているが、入所者約40人の半数は要介護度が高く、介助なしでの避難は難しい。施設長は「津波到達までにどんな対応ができるのか、まだ想像できない」と不安げだ。

 広尾町立広尾小学校の舘田真教頭は「津波が起きたらすぐに避難との意識を児童に徹底したい」と話す。今年度から「地震が起きたら、すぐ高台に」との意識を徹底するため、地震訓練と津波訓練を1つにまとめたばかり。舘田教頭は「新たな被害想定によってはマニュアルなどを見直す必要もある」と危機感を募らせた。

 

予測の評価難しく むやみに恐れず備えを

 

地震調査委員会が千島海溝沿いの地震活動の長期評価を改定し、マグニチュード(M)9級の超巨大地震が起こる可能性を指摘したのは、2011年の東日本大震災が教訓になっている。

 調査委は今回、内陸の堆積物を調べた研究をもとに、北海道東部の太平洋岸で大津波が押し寄せたと推定した。産業技術総合研究所の宍倉正展グループ長は「東日本大震災を契機に堆積物による評価の重要性が見直された」と指摘する。

 日本列島は世界でも地震が集中する地域の一つだ。千島海溝以外の地域も超巨大地震が起こる確率は高くなる。

 ただ海溝型の地震では、最大規模の推定は複数の震源域がすべて連動する場合だ。過去に起きた地震は、連動せずに1つの震源域だけで起きたものもある。活断層の起こす地震は、海溝型のような周期性が乏しく、さらに評価が難しい。

 最悪の場合を想定することは大切だが、高い確率の数字だけを見て、むやみに恐れて日常生活に支障が出るようでは逆効果になる。

 一方、2度の震度7を記録した熊本地震では発生前に、震源の布田川断層について30年以内に最大0.9%と活断層としては高い確率予測がされ、研究者は警戒していたが一般の関心は低かった。評価の内容をよく理解して、適切に備えることが重要だ。